HIVとがんのリスク
HIVとがんの関係は複雑です。
それぞれの特徴と関係性を知り、
定期的に検診を受けながら
健康を維持することが重要です。
がんについて
がんは、遺伝子が傷つき細胞が異常な変化を遂げることで起こる病気ですが、HIV陽性かどうかにかかわらず誰でもかかる可能性がある一般的な疾患です。
徴候をできるだけ早く見つけて治療を始めれば、最大限の治療効果が期待できます。
がんのリスクの評価
発症の危険性は、次のような方法で評価されます。
- 食生活と喫煙状況、生活習慣の確認
- 性別や年齢を考慮したうえでの、子宮頸がん、肝臓がん、前立腺がん、乳がん、大腸がんの検査
- 既往のがんの確認
- がん家族歴の確認
国が推奨するがん検診
厚生労働省においては、「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」 (平成20年3月31日付け健発第0331058号厚生労働省健康局長通知別添) を定め、市町村による科学的根拠に基づくがん検診を推進。
対象臓器
検診方法
|
対象年齢 | 受信間隔 |
---|---|---|
胃
問診に加え、
X線か内視鏡検査 |
50歳以上 *当分の間、X線は40歳以上の実施も可 | 2年に1回 *当分の間、X線は40歳以上の実施も可 |
子宮頸部
問診、視診、子宮頸
部の細胞診、内診 |
20歳以上 | 2年に1回 |
乳房
問診、
マンモグラフィー |
40歳以上 | 2年に1回 |
肺
質問、胸部X線検査、
喀痰細胞診 |
40歳以上 | 年に1回 |
大腸
問診、
便潜血検査 |
40歳以上 | 年に1回 |
喫煙とアルコールが及ぼす影響
喫煙と過度の飲酒は、がんのリスク要因としてよく知られています。せっかくHIVの治療をしても、喫煙などの生活習慣が原因のがんで死亡する場合もあります。
がんのリスクを減らすには、禁煙や飲酒量を減らすことが重要です。
がんの原因となるウイルス
例えば次のようなものが挙げられます。
-
ヒトヘルペスウイルス8 (HHV-8)
カポジ肉腫の原因 -
エプスタインバーウイルス (EBV)
一部の非ホジキンリンパ腫とホジキンリンパ腫の原因 -
ヒトパピローマウイルス (HPV)
子宮頸がん、陰茎がん、肛門がん、一部の頭頸部がんの原因 -
B型肝炎ウイルス (HBV) およびC型肝炎ウイルス (HCV)
肝臓がんの原因
HIVに感染しているとこれらのウイルスにも感染しやすくなるため、定期的に検査を受けることが重要です。検査の詳細は主治医に相談しましょう。
HIVとがんとの関係
HIVへの感染が及ぼす影響
HIVへの感染は、がんの発症に少なからず影響を及ぼします。HIV陽性者が、がんの原因となる他のウイルスにすでに感染している場合やそれらへの感染リスクが高いこと、また、そもそもHIVにより免疫力が低下しているため、がんの発症を抑える抵抗力が弱っていることなどが挙げられます。
次に挙げるがん腫は、HIV非陽性者よりも、陽性者によくみられます。
- カポジ肉腫
- 非ホジキンリンパ腫およびホジキンリンパ腫 (免疫力が低下した人に発症する血液がん)
- 子宮頸がん (腟から子宮の入り口にかけてできるがん)
一方で、HIV陽性者において次のようながんの増加は、現在のところ認められていません*。
- 乳がん
- 前立腺がん
- 大腸がん (結腸がんおよび直腸がん)
* 岡慎一. HIV感染症と癌. 日本内科学会雑誌. 2015;104,9:1885-1889.
成人のHIV陽性86,620人およびHIV陰性196,987人における調査
(年齢、性別、人種/民族性で調整); 1996–2009年
Silverberg MJ et al. Ann Intern Med. 2015 Oct 6;163(7):507-18. を参考に作図
HIVの治療が及ぼす影響
HIVの治療を受けると、HIV感染に伴う発がんリスクを減らすことができます。CD4陽性細胞数が少ない人でも、カポジ肉腫や非ホジキンリンパ腫のリスクを抑えられることが知られています。
HIV治療薬を服用すれば、一部のがんリスクは減らすことができます。
がんと診断された場合
HIV治療と合わせ、がんの治療方法や服用中の治療薬を見直す必要が生じる場合がありますので、主治医に相談してください。
また、次のように生活習慣を改善しましょう。
- 健康的で栄養バランスを考えた食生活を送る
- 喫煙している人は、禁煙するか、たばこの本数を減らす
- 過度の飲酒を控える
- 運動を毎日続ける
健康管理の方法について不安な点や質問があれば、主治医に尋ねましょう。