
みんなで話そう、
自分にあったHIV治療の見つけ方
通院時に心身のコンディションや悩みを上手く伝えられず、もやもやした経験はありませんか?
この記事では、3名のHIV陽性者に集まっていただき、治療に関する実体験や主治医とのコミュニケーションのコツ、これからの夢などをお話しいただきました。 当事者ならではのリアルな声を聞き、あなたのHIV治療にも役立ててみませんか。
自己紹介で、共通の趣味を発見。
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加藤と申します。セクシャリティはゲイで、50代です。趣味は音楽で、学生時代は楽器を、社会人になってからはゲイコーラスをやってきました。2023年頃からLGBTQ+の混声合唱団に加わり、今は全国のプライド系イベントや大使館などにお招きいただき、仲間と一緒に歌っています。
加藤さん -
えりです。40代女性、ストレートです。私も音楽が好きで、加藤さんは人前で歌えると聞いてすごいと思いました。家で音楽を聴くのはもちろん、好きなアーティストのライブに行くのが趣味です。ファン同士で、ライブの記念写真を撮ったりご飯を食べに行ったりして楽しんでいます。
えりさん -
ワタルと申します。セクシャリティは、ゲイなのかバイなのか自分でも分かっていません。年齢は40代です。僕も歌うことが好きで、加藤さんと同じくプライド系のコンサートに出たことがあります。休日はドライブがてら、ちょっと遠くまでおいしいお店を探しに出かけたりしています。
ワタルさん
HIV陽性だとわかったきっかけは様々

2002年に参加したHIV啓発イベントの初日に採血をし、翌日にHIV陽性が判明しました。治療を始めた20年以上前は、今と違って複数の薬を組み合わせて服用していて。当時の私は、1日3回、合計7錠の薬を飲んでいたのですが、性格的にすんなりと習慣化でき、今日まで一度も服薬を欠かしたことはないです。
それはすごい!私も2002年から治療をしています。妊娠5ヶ月頃に検査をしたときに、HIV陽性がわかりました。私の場合はお腹の中の子にHIVを移さないように、より安全性が高いとされる少し古めの薬を1日2回、合計10錠近く飲んでいました。腹痛などの副作用がきつく、当時は大変でした…。 加藤さんもおっしゃった通り、当時の薬は今よりも錠数が多くて、皆さん飲みにくかったと思います。


僕は2014年にHIV陽性が判明しました。体調がすごく悪い状態で搬送(はんそう)され、入院前の血液検査でAIDS関連症候群*1 を発症していることがわかりました。当時CD4*2 細胞数が0だったので、2ヶ月ほど前段階の処置を受けてからHIV治療を始めました。
実際のところ、主治医に自分のコンディションを話せている?

日本国内在住のHIV陽性者を対象にした無記名自記式ウェブ調査「HIV診療・治療とコミュニケーションについての調査」(株式会社アクセライトが2020年7月13日~8月17日に実施、605名が回答、本調査はギリアド・サイエンシズ社より支援を受けています)

僕の場合、最初に搬送された時に命の危機に近い状態を経験していたので、病気は早いうちに手を打った方がいいという実感があります。そのため、些細な体調の変化なども正直に伝えるようにしてきました。また、自分で医療情報や学術論文などにあたり、不調の原因と関連があると思った資料をプリントアウトして、主治医に相談したこともあります。とはいえ、緊急搬送された経験がなかったら、自分の不調を伝えるのは大変だったかなと今では思いますね。
私も先生にしっかりと話す派です。HIV以外にも持病が多いので、他科の先生も含めて、できるだけコンディションを伝えるようにしています。加藤さんはいかがですか?


私もお話はしているほうです。ただ、私も別の病気で他科を受診するとき、HIV陽性であることと共に体調などを正直に伝えているのですが、別の病気とHIVの関係については先生ごとに判断が異なることもあります。満足のいく回答でなかったり、大きな悩みでなければ言うのが面倒と思うこともあったりして、今はまれに一部だけを話すことも…実情を話せていない方の気持ちもわかります。
そうなんですね。


とはいえ、HIVは長く付き合っていく病気なので、先生との信頼関係がないと…。私は基本的に、コンディションなどを伝えたうえで、言いたいことや聞きたいことは正直に話すというスタンスにしています。
主治医と話したことで、治療の疑問が晴れたり、
ストレスが軽くなったことはある?

日本国内在住のHIV陽性者を対象にした無記名自記式ウェブ調査「HIV陽性者の抗HIV療法に対する意識・経験調査治療」(株式会社アクセライトが2024年4月8日~5月8日に実施、HIVの治療を目的とした定期的な通院を「している」と回答した887名のデータ、本調査はギリアド・サイエンシズ社より支援を受けています)

この調査の多くの回答者と同じように、私はちょっと疑問に感じたり、知りたいなと思ったことは質問しています。支援団体のメンバーなどから新薬の服用経験談を聞き、そのHIV治療薬が自分の治療方針に合っているか、切り替えるメリットがあるかなどを主治医に確認したことがあります。
僕は自分からの意思表示はあまりしたことがないのですが、加藤さんと同じく、薬や他の病気についての質問、HIV以外の病気についての情報を伝えることなどは適宜しています。


私もほとんど先生にお任せしていますが、副作用など疑問に思ったことや治療に対して気になることがあったときに相談したことがあります。
そうなんですね。


以前飲んでいた薬の副作用で、お腹の調子が悪くなり、先生に悩みを伝えたことがあって。そのことを覚えていてくれたみたいで、あるとき別のHIV治療薬を提案いただきました。薬が世に出てから1年ほど経ち、実績が溜まっていたことがあと押しになり、思い切って変えました。すると、生活の質がすごくよくなったんです!先生から、自分に合った薬を勧めてもらえるのはありがたいです。
それは素敵ですね!僕のことをいま担当してくれている主治医も、えりさんのケース同様、役立つ情報を積極的に教えてくださる方で助かっています。実はその前にも2人の主治医に診ていただいたことがあるのですが、どちらも気さくで話しやすい反面、こちらから質問をしないと情報提供をしてくださらない方たちでした。


そういう先生もいるんですね。
はい。支援団体を通してできたHIV陽性者の友だちなどから、新薬の話を聞いて気になっていたので、自分で調べた情報も見せながら当時の主治医に話しました。すると普通に説明してくれたんです。もしかすると「服用中の薬が原因で、強い副作用などが起きなければよい」というスタンスの方だったのかも。


ひと口にHIV診療医と言っても、いろいろなタイプの方がいますよね。
ですね!それから、診察室にプラスチック製の錠剤見本が置いてあったりしますよね。その中に見慣れない薬を見つけて、「あれって何ですか?」と聞いたことがあります。


私は診察室で、そういうものを見たことないですね。こちらから言わないと出てこないのかも。
私は薬を変えるときに1回だけ、「この薬がいいですよ」と先生が見本を出してくれたことがあります。ワタルさんの病院みたいに、いつも見やすい場所に置いてあるのは、すごくいいなって思いました!


僕の通う病院がレアなのかな(笑)僕から当時の主治医に新薬の質問をした頃は、3錠を飲まないといけない薬で治療をしていたのですが、錠剤が大きく持ち運びも大変なうえ、目立つ色だったので、外食時などに人前で飲みにくいなって…。だから、どうにかこの悩みを解消したかったんです。
派手な色の薬もありますよね(笑)


周りからすると、悪気はなくても「それ何?」と聞きたくなっちゃいますよね(苦笑)そんな状況がかなりストレスだったので、1錠で済むHIV治療薬を知り、自分の体調などを考慮して服薬できるかどうかを主治医に確認しました。結果、無事に変薬でき、旅行や出張時なども楽になりました!
薬が変わると、生活の質が改善することもありますよね!飲みやすい形になったり、食事に影響されなくなったりといった理由で、私も何度か変えています。

主治医とのコミュニケーションに悩んだら、
メモを用意したり、他の医療従事者に相談する手も。

HIVは他の病気にかかるリスクも高めるので、HIV診療医は他科の先生よりもいろいろな病気についての知識を持っている印象です。なので、あまり気負いせずに悩みや不安を相談してみるのがよいと思います。私は身体の不調を先生に伝えたことで、紹介状と共に適切な他科につないでいただき、改善したことがあります。
コミュニケーションの取りやすさは、主治医との相性や場の空気に左右されることも多いので、なかなか本音を伝えにくい状況もあると思います。僕が通っているブロック拠点病院にはコーディネーターナース*3 がいて、主治医との間に入って調整をしてくださります。そうしたワンクッションをはさむのもひとつの手だと思います。


私にとって初めての主治医は幸いにも話好きな方で、気軽に相談ができました。いま思うと、主治医側からコミュニケーションを図ろうとしてくださっていたのだと思います。中には少し距離感のつかみにくいHIV診療医もいますよね。そういった場合、ワタルさんがおっしゃるように、主治医以外の医療従事者を頼るのもありですね!
スマートな相談の仕方ですよね!


ですね!特にHIV陽性が判明して日が浅い方だと、主治医に対して「忙しそうだから、自分のために時間を割いてもらうのは申し訳ない」と考えてしまうことも多いと思います。そんなときは、あらかじめ聞きたいことを箇条書きなどにまとめて、そのメモを先生に渡すだけでも上手くいくかもしれません。
診療時コミュニケーションも、いろいろなスタイルがありますね。まずは加藤さんが紹介してくださったようにメモを使ったりするのもよいと思います。距離感を探りながら話してみたりすると、お互い傷つかずによい関係を築けると思いました。

このサイトで公開中の「対話を深める通院前チェック」 で、いまの自分をサッと振り返る。

このツールは、選択肢を見て、当てはまる症状などをチェックする形式だから、簡単に事前準備ができてよいですね。普段あまり気に留めていないことなども一覧で提示されると、今の自分が抱えている無自覚だった困りごとに気づくきっかけにもなりそうです。使ってみたいなと思いました。
私も使ってみたいです!今まであまり通院前の準備をしたことがなくて、その場で記憶をたどり、前回からの体調の変化や他科の受診状況を主治医に伝えていました。こういったツールがあると便利ですね!スマホやパソコンにブックマークしておけば、すぐに使える手軽さもよいです。


前回の通院以降に起こったことを主治医に話すようにしていますが、通院の間の3ヶ月間に起こったことをすべて覚えているかというと微妙なときもありますよね…。その期間を振り返るきっかけにもなり、よいツールだと思いました。
そうですね。


このツールの結果画面にはチェック実施日も表示されるので、通院前だけでなく、気になったことがあったら都度記録する使い方もできそうだと思いました。撮りためたスクリーンショットをまとめて見返せば、何が起きたかをすぐに思い出せ、スムーズに主治医と会話できそうです。
自分に合ったHIV治療を続けながら、
それぞれが目指す新しいチャレンジへ。

私はこの先、外国で自分の力を試してみたいと思っています。最初にお話しした合唱団にはグローバル志向のメンバーが多く、いくつか海外公演も予定しています。彼らから大きな影響を受けたことがきっかけで、まずは英語力を磨くところから始められたらと思っています。それから今の家に住んで長いので、そろそろ引っ越しもしたいです。
僕も加藤さんと似ていて、体調がかなり安定してきたこともあり、海外で仕事をしたいという夢があります。移住にあたり、現地の医療体制や日本で受けた医療情報がきちんと引き継がれるかなどが気になり、自分で調べたり人に相談したりしました。想像よりもハードルが高くなさそうなので、チャレンジできたらと考えています。


皆さん、素敵な夢を持っていますね!私は、大学生の娘が卒業後に家を出る予定なので、新生活に向けて快適に暮らすための準備を進めています。それから子どもの頃に習っていたエレクトーンや兄から譲り受けたクラシックギターなどにも挑戦してみたいのですが、一人で楽譜を見ながら練習するのは難しいかなと悩んでいます…。
楽器を触っているうちに何となく楽しめると思うので、まずはそこからでもよいと思いますよ。趣味の集まりに参加して、他の人と交流しながら少しずつスキルを磨くのもおすすめです!


最近は、動画共有サービスに楽器の弾き方のコツなどがたくさん公開されているので、そういった動画を参考にするのもいいかもしれません。
お二人とも、アドバイスありがとうございます!新生活が始まったタイミングで、楽器の練習もスタートしてみようと思います。

*1 HIV感染が進行して、AIDSを発症する手前の段階のこと。
*2 病気から身を守るための免疫細胞のこと。
*3 主治医と共に、HIV治療に必要な情報提供や相談などに取り組み、HIV陽性者のセルフマネジメントをお手伝いするプロフェッショナルのこと。
3名のHIV陽性者の実体験を聞いてみて、いかがでしたか?
たくさんの気づきがあったと思いますが、
中でも特に覚えておいていただきたいことは次の3つです。
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1
主治医に悩みや不安を正直に伝えた方が、よりよい治療につながる
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2
HIV治療薬を変えることで、生活の質が改善するケースも
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3
通院前チェックを活用したスマートな準備で、有意義な診療時間に
このサイトでは、みなさんに向き合うHIV診療医が、どんなことを考えて診療に取り組んでいるのかをまとめた記事も公開しています。ぜひ、もうひとつの視点も知り、ご自身の治療に役立ててください。