
治療は、自分と医療者が
つくるもの
~将来を見据えて最適な治療を、あなたの声で~
都内で理髪店を営んできた青木さん。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染がわかったのは20代の頃でした。以来、死への不安と常に向き合いながら、また周囲の偏見と闘いながら、治療生活を続けてきました。それでも、治療に対しては常に前向きであり続け、医療者との対話を大切にし、自分にとって最適な治療を見つけるための努力を惜しむことはありませんでした。
今回は青木さんに、HIV感染が判明した当時の心境や、これまでどのような思いで治療に向き合ってきたのかを伺いました。
取材協力:

血友病治療に用いられた非加熱の血液凝固因子製剤によりHIVに感染。現在は、はばたき福祉事業団の監事をしている。 病気の有る無しにかかわらず、皆と楽しく「今を生きる」ことをモットーとしている。
感染への不安、告知後の想い
私がHIVに感染したのは、1982年から1983年にかけて投与された非加熱製剤が原因だろうと思われます。ちょうどその頃、米国では非加熱製剤を投与した患者の中にHIV感染者がいることが報告されていましたし、日本でも1983年に、HIV感染者の死亡が公表されました。当時、なにが起こっているのかは正確にわかっていなかったのですが、非加熱製剤の危険性は高いと考えられていましたので、自分も感染しているかもしれないという不安はありました。
しかし、実際にHIVに感染しているかどうかについてはすぐには教えてもらえませんでした。それまでの長い間、漠然とした不安を抱えながら過ごし、ときには「もしかしたら感染していないかもしれない」という淡い期待を抱いたこともありました。
そして、1991年の1月に正式に感染を知らされたときは、「やっぱりそうか・・・」と思いました。私の家系には4人の血友病患者がいるのですが、感染していたのが私だけだったということもあり、落ち込みました。ただ、ずっとモヤモヤした気持ちを抱えていたので、結果がはっきりしたことで、ある種のすっきりした気持ちがあったことも否めません。感染の事実は変えられないので、なんとか頑張って前を向いて生きていくしかないと思いましたね。
周囲の偏見とも闘う
感染したことは事実として受け入れるしかないとしても、なぜこんなことになってしまったかを考えると、やりきれない気持ちになり医療への不信感が募りました。
また、HIVに感染したことを人に知られたくないという思いもありました。当時は血友病であることさえ口には出しにくい状況であったのに、さらに加えてHIVに感染したとなると、もっと大変なことでした。感染そのものに対する不安に加え、周囲の偏見や差別に対する警戒心も強く、精神的な負担はかなり大きかったように思います。
もちろん、その事実をひた隠しにしていたわけではありません。話すことでどう思われるかという不安はありましたが、親しい友人たちには打ち明けました。そうしたら、意外と理解をしてもらえたんですよね。話したあとも関係性が崩れることもなく、むしろ自分にとって大きな支えとなる存在になってくれています。

対話から生まれる最適な医療
感染当初は医療への不信感もあったものの、それでも前向きに治療に取り組もうという気持ちは常に持っていました。幸い、HIV感染の治療については信頼できる専門医に出会えたので、その点では恵まれていたと思います。
ただ、主治医の指示に従うだけではなく、自分の意見や気持ちも伝えながら、対話を重ねることを心がけてきました。医師の異動や退職で主治医が変わることもありますが、そのたびによい関係を築けるように意識しています。
もちろん、人と人との関係なので、相性が合わないこともあるでしょう。実は私も、どうしても、ある医師と理解し合えず、病院を変えた経験があります。長期にわたる治療においては、自分自身が納得して治療を続けることが大切です。不満や不信がくすぶっている状態で治療を継続していても、あまりよい将来は見えてきません。自分の考えはしっかりと伝え、相手の話にも耳を傾ける。その上で、最適な治療を一緒に選んでいく姿勢が大切だと思います。
長期にわたる療養を続ける中で大切にしていること
長期療養を続けていく上では、いくつかの大切なポイントがあります(図)。その中でも私は、今述べたように、「自分の意見や気持ちをしっかり伝える」というコミュニケーションが最も重要だと考えています。それが根本にあれば、自分のライフスタイルに合った治療が選択できるようになりますし、副作用や薬剤耐性などのリスクについても医師に相談しやすくなります。
さらに、長期にわたってウイルス量を検出限界値未満に維持することで、自分自身の健康のみならず、家族やパートナーの健康を維持することにもつながります。
私が現在服用している抗HIV治療薬は1日1回のお薬ですが、これも主治医とよく話し合って決めました。主治医も私の希望を理解してくれており、「利便性を考えたらこれだね」という感じで双方納得の上で決定しました。日常的にコミュニケーションが取れていれば、医師も陽性者の事情に合わせた治療提案がしやすくなるのではないかと思います。
個人のニーズ
あなたに合った治療を選択する
自分のライフスタイルや好みに合わせた治療方法を選択できる1,2)
安全性・治療の続けやすさ
長期的な安全性を見据えた治療を選択する
HIVと他の病気の治療を安心して継続できるようにする2,3)
治療実績
確かな情報を基に治療を選択する
治療薬について、医師や医療スタッフとしっかり話し合い、納得した治療を選択できるようにする4-6)
早期治療開始
できるだけ早くU=U達成を目指す
できるだけ早くウイルスを抑制し、その状態を維持することで、健康を維持しパートナーへの感染も防ぐ1,3)
U=U(Undetectable=Untransmittable)高い耐性バリア
薬剤耐性※のリスクを最小限に抑える
耐性を防ぐことで、将来も効果的な治療を継続できるようにする2,7)
※治療を続けていると薬剤が効かなくなること- Antela A, et al.:J Antimicrob Chemother 2021; 76(10):2501-2518.
- Taramasso L, et al.:Pharmacol Res 2023; 196:106898.
- Lazarus JV, et al.:HIV Med 2023; 24(Suppl 2):8-19.
- Bass SB, et al.:AIDS Patient Care STDS 2020; 34(9):399-416.
- Dubé K, et al.:HIV Res Clin Pract 2023; 24(1):2246717.
- Panel on Antiretroviral Guidelines for Adults and Adolescents. Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in Adults and Adolescents With HIV. Department of Health and Human Services. Available at https://clinicalinfo.hiv.gov/en/guidelines/adult-and-adolescent-arv.(2025年5月22日閲覧)
- Gardner EM, et al.:AIDS 2009; 23(9):1035-1046.
1、2、3):本論文はギリアド・サイエンシズ社より支援を受けています。著者にギリアド・サイエンシズ社より支援を受けている者が含まれます。
5):著者にギリアド・サイエンシズ社より支援を受けている者が含まれます。
監修:国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター 潟永 博之先生
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HIV感染症以外の病気も今後の課題
昔は、HIV感染症が原因で亡くなるケースが多かったのですが、最近はHIV感染症以外の病気をどう管理していくかが課題になっているように思います。陽性者の高齢化により、生活習慣病や目の病気、歯の病気といった老化に伴って起こる病気への対処が大切です。これらの病気は、今年で還暦を迎える私にとっても他人事ではありません。
また、私は最近までC型肝炎ウイルスにも感染していました。幸い、近年登場した経口薬の治療によってウイルスは排除されましたが、慢性肝炎の状態は続いています。肝硬変や肝がんに進行しないように、定期的なチェックが欠かせません。
そうした合併症の問題もあるので、やはり医師とのコミュニケーションは重要ですね。

陽性者が変われば医療が変わる
はばたき福祉事業団では、「患者が変われば、医療は変わる。」をスローガンに掲げていますが、これは本当にその通りだと思います。陽性者が声を上げることがよりよい医療につながることは、はばたき福祉事業団のこれまでの活動が証明しています。
そもそも、はばたき福祉事業団は薬害エイズ訴訟の原告団を母体として、和解成立から1年後の1997年に設立されました。本来であれば、国や企業が率先して被害者の救済に取り組むべきなのですが、それが進まないため、被害者自らが自分たちの医療・福祉・社会生活の向上を目指して、任意財団として組織されました。その後2006年には、恒久的に活動していく必要性から、HIV陽性者や血友病患者等の身体障害者の更生相談事業を行う、第2種社会福祉法人としての認可を受けました。
設立以来、被害者を対象とした健康支援事業、検診事業、相談支援事業などの社会福祉事業に加え、遺族支援や調査研究事業にも精力的に取り組んできました。薬害エイズ裁判の和解に基づいて国との協議を進める中で、HIV陽性者に対する障害認定が制度として導入されたり、HIV感染症の研究治療センターの設置、エイズ拠点病院の拡充が進んだりと、HIV感染を取り巻く環境は大きく変化しました。こうした変化は、まさに陽性者自身が声を上げることの重要性を示しているといえるでしょう。
一方で、日常診療の場においても、陽性者が自らの思いを伝えることは非常に大切です。「言いづらい」「我慢できる」など、口に出さない理由はさまざまですが、伝えなければ医療側としても判断のしようがありません。医師とのコミュニケーションが難しいと感じる方も多いと思いますが、お互いの考えを把握できないがゆえに、すれ違い、食い違いが起こってしまい、それが不信感につながってしまうこともあり得ます。遠慮せずに、なんでも伝える意識を持つことが大切です。医療者もそれを歓迎するはずです。主治医に言いにくければ、薬剤師さんや看護師さんでもかまいません。まずは話しやすい人に相談してみることもひとつの方法です。
はばたき福祉事業団のサポートを利用してほしい
私が通院していた病院には、専門医やコーディネーターナースが在籍していたので、病気や治療に関する情報は十分に得ることができました。しかし、そうした体制が整っていない医療機関に通院されている方の場合は、情報の入手に不自由されているかもしれません。そのような場合は、はばたき福祉事業団を活用していただきたいと思います。
はばたき福祉事業団ではHIV感染者等を対象とした相談事業を行っており、専門の相談員が対応しています。電話相談だけでなく、訪問相談や、専門医がいる施設の紹介なども行っていますので、きっとお役に立てると思います。
はばたき福祉事業団の活動内容についてはこれまでも発信してきましたが、まだご存じない方もいらっしゃるかもしれません。誰にも相談できずに過酷な環境に身を置いている方も少なくないと思われますので、遠慮せずにご連絡いただければと思っています。
設立当初は、薬害エイズ被害者へのサポートが主な活動でしたが、近年では被害者の高齢化に伴い、ご家族への支援も重要なテーマとなっています。ご家族の方からの相談も歓迎していますので、気になることがある方はぜひご連絡ください。

「今」を大切に生きる
HIVに感染した当時は、まさか還暦になるまで生きられるとは思っていませんでした。いつ命を落としてもおかしくない状況でしたが、治療の進歩のおかげで今日まで生きてこられたことに心から感謝しています。
とはいえ、これから先のことは誰にもわかりません。HIV感染による悪影響はゼロではありませんし、先ほども述べたような、HIV感染症以外の病気のリスクもあります。だからこそ私は、「今」を大切に、精一杯生きたいと思っています。毎日を楽しく過ごさなければ生きている意味がありません。そして、できることなら少しでも誰かの力になりたいという思いを持ち続けています。
私と同じようにHIVとともに生きる人たちにも、「楽しんで生きてください」と伝えたいですね。不安や迷いを感じることもあるでしょう。でも、あなたはひとりではありません。医療者、家族、友人など、周囲の人たちと対話を重ねていくことで、不安はきっと和らぐはずです。自分を大切にし、無理をせず、自分らしく日々を過ごしてほしいと心から願っています。

取材日:2025年5月14日
於:ギリアド・サイエンシズ株式会社
この記事はインタビュー実施時点の情報を基に作成されています。
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