健康状態をチェックしてみる

HIVと肝臓の健康状態

HIVは肝臓に直接的な悪影響を
及ぼしませんが、
影響を及ぼすその他の
要因とともに理解を深め、
肝臓の健康を保ちましょう。

肝臓について

肝臓は、私たちが生きていくうえで重要な役割を担っています。食物の栄養素を身体を動かすエネルギーに変化させ (消化作用) 、老廃物を取り除いて有害な物質を除去し (解毒作用) 、HIV治療薬などのお薬を代謝するといった働きです。

肝臓の負担は、肝臓で代謝するお薬やアルコールなどの量が増えるほど大きくなります。また、肝機能は年齢とともに低下し、消化や解毒などの作用が弱まります。その結果、肝臓病が引き起こされることもあります。

主治医に相談すべきこと

まずは次のことについて相談してみましょう。

  • HIV治療の開始時期や服用中のお薬の見直しについて
  • 定期的な血液検査から分かる肝機能の状態について

肝臓病とは?

肝臓病とは、肝臓に影響をおよぼしその機能を低下させる、次のような病気の総称です。

  • ウイルス性肝炎
    肝臓がA、B、C、D、E型などの肝炎ウイルスに感染して炎症が起こる疾患。型により特徴は異なるが、いずれもウイルス感染による自己免疫反応で肝臓の細胞が壊れ、働きが悪化する
  • アルコール性肝疾患
    過度の飲酒が主な原因。治療は断酒が基本で、心理的サポートを勧められることもある
  • 非アルコール性脂肪性肝疾患 (NAFLD)
    肝臓に脂肪が多くたまることで引き起こされる、さまざまな病態の総称。太りすぎや糖尿病がある場合に多くみられ、HIV感染者でも増えている。治療は、健康的な食生活など生活習慣の改善が基本
  • 非アルコール性脂肪肝炎 (NASH)
    NAFLDの中でもより深刻な病態を指す

ウイルス性肝炎の種類と特徴

A型 B型 C型 E型
潜伏期 2〜6週間 1〜6ヶ月 2週〜6ヶ月 2〜9週(平均6週)
キャリア化 なし あり。日本には100万~150万人のキャリアがおり、ほとんどは無症候性。 あり。日本には150万~200万人のキャリアがいる。 なし
劇症化 あり あり まれ あり
慢性化 なし まれ(成人の場合) 約70%が慢性化 なし
特徴 一過性の感染。治療後に終生免疫を得る。高齢者の場合、抗体をすでに獲得している人も多く、その場合、感染しても肝炎を発症しない。 成人になってから感染した場合、急性肝炎から自然経過で治癒するケースがほとんど。感染しても発症しない(不顕性感染)こともある。 新生児、小児期に感染し放置すると80%以上の確率で慢性化する。 感染した人の多くは不顕性感染。約30%は一過性感染で治癒するが、約70%が慢性化。約20年後には30~40%が肝硬変に進行、さらに年率約7%の人が肝がんに進行。 一過性の感染。特に若年者では不顕性感染が多い。急性肝炎を発症した場合はA型肝炎に似た症状が出る。 人獣共通感染症が疑われている。妊婦が発症した場合、致死率が20%に達するという報告がある。

山本雅一ほか監修:全部見えるスーパービジュアル消化器疾患
成美堂出版, 2013, p208より一部改編

肝臓病のリスクの評価

発症の危険性は、次のような方法で評価されます。

  • 大量の飲酒や不健康な食生活といった悪い生活習慣の有無
  • ウイルス性肝炎 (主にB型肝炎またはC型肝炎) の感染検査
  • 服用中の全てのお薬 (HIV治療薬以外も含む) を見直し、肝機能障害のチェック
  • 定期的な血液検査
  • 不適切な薬物の使用

肝臓に負担をかけないように心がけ、定期検査の結果を確認しながら、生活習慣をどのように改善すればよいか主治医に相談してみましょう。

HIVと肝臓病との関係

HIVは肝臓に直接的な悪影響を及ぼさないため、HIV感染者の多くは肝臓に問題はありません。

しかし、HIVを治療せずにいたり、ウイルス性肝炎 (主にB型肝炎またはC型肝炎) を合併していたりする場合、肝臓がより悪くなることがあります。また、大量飲酒をしていたりする人は肝臓にかかる負担が大きく、肝臓病になるリスクが高くなります。

一方で、近年、肝炎ウイルスや飲酒と関係なく発症する非アルコール性脂肪性肝疾患 (NAFLD) の合併も増えています*。これには、一部のHIV治療薬の長期服用が関連する可能性があると考えられています**

*非アルコール性脂肪性肝疾患. 国立研究開発法人 国立医療研究センター 肝炎情報センター.を参考に作成
http://www.kanen.ncgm.go.jp/cont/010/shibousei.html (参照 2020-04-09)
**Curr HIV Res. 2007 ;5:490-8.を参考に作成

肝機能障害と肝機能障害関連死の発生率

HIV感染者20,775例と非HIV感染者215,158例を対象としたコホート研究
(Kalser Permanente, 1995–2008 海外データ)多変量ポワソンモデル(年齢、性別、人種/民族、喫煙、アルコール依存の診断、薬物依存の診断、HBVまたはHCV共感染、高血圧の診断、糖尿病の診断、脂質異常症治療薬の使用の有無、暦年で調整)

HIV感染者20,775例と非HIV感染者215,158例を対象としたコホート研究

Gonciulea A, et al.: AIDS 2017; 31: 1435.を参考に作図

肝機能の低下が認められた場合

改善するには健康的な生活習慣を続けることが重要です。
次のような生活習慣を守りましょう。

  • 健康的な食生活を送る
  • 飲酒を控える
  • 不適切な薬物の使用をやめる

市販薬や処方薬 (HIV治療薬を含む) の飲みすぎは、副作用などによって肝機能を弱める場合もあるため、B型肝炎やC型肝炎にかかっている場合は、主治医から助言を受けることが特に重要です。
まずは主治医に服薬量の見直しが必要かどうか相談してみましょう。

少しでも気になったときはもちろん、
不安がないときこそ、
健康状態をふまえ将来の治療について
考えるチャンスです。

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